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砂原遺跡の前期旧石器発見と素朴な疑問 [旧石器]

出雲市砂原遺跡で前期旧石器発見のニュースです。

ネットで検索するといくつか記事が出てきます。

写真を見る限り、下記の記事にもあるように、白石先生のコメントが

現段階では一番良いのではないでしょうか。

調査のきっかけになった資料は、剥片のようにも見受けられますが、

他の写真はちょっと疑問が・・・・・。

いずれにしても、実物を見なければいけませんね。

だけども、出土層位が確実でも、人工品に見えようとも、今回の件は慎重に

お願いしたいと思います。

後期旧石器をさかのぼる石器群を認める場合の「カギ」は、接合資料だと

思います。

私は、明治大学で開催された日本考古学協会で、後期旧石器時代を

さかのぼる石器群の評価は次の点の確認が必要と提示しています。

その部分を転載します。

1.後期旧石器時代を遡る石器群の条件

 

2000115日に発覚した前・中期旧石器捏造事件により、日本列島の後期旧石器時代以前の石器群は古く位置づける根拠を失った。それは捏造資料を基に組み立てられた石器編年との比較によって構築されたものであったからに他ならない。捏造発覚後は、各地で捏造資料以外の古いとされる石器群の再検討や旧石器時代の始原を探る調査や研究が進められており、いくつかの後期旧石器時代を遡る可能性のある石器群が提示されている。しかしながら、それらの石器群は、いずれも層位や年代、資料の一括性などに何らかの疑問や問題が残されており、全ての研究者に認められる確定した評価を受ける石器群は認められていない。

 

さて、誰もが認める古い旧石器の条件とはどのようなものであろうか。当たり前ではあるが、次の4点を挙げてみる。

 石器に残された明確な加工痕 人為的な二次加工、それも連続的なものにより石器が製作されていること。

②遺跡が、礫層や崖錐性堆積物などでない場所に存在すること。すなわち偽石器が存在する疑いのない場所であることが地質学的に確認できること。

確実な層位的な出土 石器群が出土する層位の上下に由来(年代)の明らかな火山灰があり、およそ3万年以上前という層位的な位置づけが明確であること。もしくは、後期旧石器時代最初期と評価される「Ⅹ層段階」石器群よりも下層から出土したものであること。

④石器が単独ではなく、石核、剥片等の複数の資料によって石器製作の痕跡が確認でき、なおかつ接合資料によって石器群の同時性が認められること。

 

現在、後期旧石器時代を遡る可能性が指摘される石器群は、上記に挙げた条件の全てに適合するものは認められない。

確実な前・中期旧石器時代の石器群と誰もが認めるためには、①~④の条件を満たすか、新たな理由によりその古さを証明しなければならないであろう。そこで、型式や石器製作技術などの類似を列島外の前・中期旧石器時代と比較して提示することは、研究の過程では必要なことであるが、決定的な条件とはならない。

捏造事件での反省の一つは、こうした比較研究の危うさであったのではないか。捏造後の旧石器考古学に対する社会的な厳しい情勢に対して、石器群を評価する総合的な視点や厳密な姿勢を持つことは必要なことであろうと考える。

我々がまず行なうべきことは、誰もが認める後期旧石器時代開始期の石器群の多角的・総合的な研究を蓄積することであろう。その上で、後期旧石器を遡るとされる石器群との比較・検討も可能となるであろう。

諏訪間順 2007「後期旧石器最初期の石器群の評価」『日本考古学協会第73回総会研究発表 テーマセッション:日本旧石器時代文化のはじまりと特質 発表要旨』90-91,日本考古学協会

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産経新聞

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090929/acd0909291821009-n1.htm 

国内最古の旧石器を出雲で発見 12万年前、これまでより3倍古く (1/3ページ)

2009.9.29 18:18

 国内最古とみられる約12万年前の旧石器時代の石器20点が、島根県出雲市多伎の砂原遺跡で出土し29日、同遺跡学術発掘調査団(団長、松藤和人同志社大教授)が発表した。国内ではこれまで3万5千~4万年前の旧石器が最古とされていたが、8万年以上さかのぼることになり、日本列島に人類が存在したことを示す画期的な発見となりそうだ。

 同遺跡で地質調査をしていた成瀬敏郎・兵庫教育大学名誉教授(古土壌学)が8月、日本海から約100メートル内陸に入った地層面が見える崖(がけ)で石片を発見。松藤教授が鑑定したところ人為的に加工された石片の可能性が高いことが判明し、詳細な発掘調査を実施した。

 石器は、石英の一種の玉髄(ぎょくずい)製などで長さ2~5センチ程度だった。いずれも人の手で割られたとみられる鋭い断面が確認された。この石器は、ナイフのように使った可能性もあるという。

 地層の分析で、石器の上40~50センチに積もった火山灰層が約11万年前、近くの三瓶山(さんべさん)が噴火して形成された「三瓶木次(きすき)火山灰層」と特定。見つかった石器は、この地層よりさらに古いことが分かった。 

 旧石器については平成12年、宮城県上高森遺跡から出土した約70万年前とされた石器が、発掘担当者によって意図的に埋められた捏造(ねつぞう)と判明して以降、明確に旧石器と認められるのは、3万5千~4万年前が最も古いとされてきた。

 松藤教授は「地層の状況から、年代をきっちり特定することができた意義は大きい」と話していた。 調査報告会は10月4日午前10時半、出雲市の多伎コミュニティーセンター、調査速報展示は10月10~25日で同市の県立古代出雲歴史博物館で行われる。

 捏造事件」のタブー破るか 約12万年前の国内最古とみられる旧石器が見つかった島根県出雲市の砂原遺跡。平成12年に発覚した旧石器捏造(ねつぞう)問題の記憶がいまなお鮮烈なだけに、研究者の衝撃は大きい。 「本当に石器なのか」という根強い疑問に対し、調査団は「さまざまな角度から検証した」と自信を深める。日本列島に人類はいつ出現したのか-。わずか数センチの石片が、謎を秘めた日本人のルーツに大きな一石を投じることになった。

 調査団長の松藤和人・同志社大教授は石器の年代について「科学的に時期が分かる火山灰層が何層もあり、年代に問題はない」と強調。旧石器捏造問題では、日本考古学協会調査特別委員会の総括委員として検証しただけに、自らの調査でも地層を丹念に調べた。「捏造問題以降、3万5千年前より古い旧石器研究はタブーになった。今回の調査は、及び腰だった研究者を励ますことになるはず」と松藤教授。韓国では50万年以上前の旧石器が発見されており、「中国大陸と地続きの時代があった日本列島に、12万年前に人類が渡ってきても不思議はない。日本の人類史の起源を探る重要な資料だ」と話す。

 「最古の旧石器」を証明するカギは、地層の年代とともに、石片が人工的に加工されたのかという点だ。石同士がぶつかって自然に割れた可能性も捨てきれないためだ。今回の石器のうち流紋岩製の1点(長さ約5センチ)は、石材をいったん厚さ1センチに割ったのち、さらに先端をとがらせるため細かく削り、突き刺す道具として加工した痕跡が確認されたという。

 安蒜(あんびる)政雄・明治大教授(旧石器)は「出土した石片は人工品とみられ、地層の年代も信頼性は高い」と評価する。 

 ただし、自然に割れた石か、人為的な加工かを見分けるのは難しい場合も多い。

 白石浩之・愛知学院大教授(旧石器)は「玉髄の石片は人工的に打ち割った可能性もあるが、他の石片は不明瞭なものもあり、さらに詳細な調査が必要」と慎重な姿勢をみせ、今後の調査に期待を寄せた。

 一方、旧石器が出土した場所は海岸沿い。山間部で狩猟採集に励む旧石器人というイメージを一新する可能性も出てきた。松藤教授は「魚など海の幸を取っていたことも考えられ、旧石器時代の生活を復元する上で興味深い」と話した。 


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早傘

早いですね!
各紙各氏の姿勢を整理してみました

by 早傘 (2009-09-29 21:46) 

八ケ岳

本日のこの報道がありましたが、石片の写真を見たかぎり、石器の場合、自然石の場合、双方があり得ると感じました。問題は石材環境ですが、自然状態でこの手の石材を含み得ないのでしょうか。気掛かりです。
私自身は、後期旧石器以前とされる資料の評価には、慎重を期したいという立場は変わりません。
by 八ケ岳 (2009-09-29 22:05) 

八ケ岳

・・・それから
■「捏造事件」のタブー破るか 約12万年前の国内最古とみられる旧石器が見つかった島根県出雲市の砂原遺跡。平成12年に発覚した旧石器捏造(ねつぞう)問題の記憶がいまなお鮮烈なだけに、研究者の衝撃は大きい。
・・・とありますが、私はとくに衝撃は大きいわけではありません。静観視したいですね。タブー視されてきた、というのもどうかな・・・
by 八ケ岳 (2009-09-29 22:13) 

クロネコ

あのう、ニュース見ましたが、日本列島の最古の石器っていま8~9万年前なんですか?ニュースではそういってましたけど。娘の学校の教科書には縄文時代も無くて、いきなり稲作と大和政権からですけど。それが8~9万年前あり~の、こんどは12万年前なんですか?地層が12万年前のっていう話じゃなく、石器が古いんですか?
by クロネコ (2009-09-29 22:18) 

ジュンクワ

早傘さん、さすがに早いですね。
久々にこうじ板もにぎわうのでしょうか?
早傘さんの掲示板はこちらです。

http://hpcgi2.nifty.com/HAYAKASA/godhand.cgi?df=kouzi.log&root=0029
by ジュンクワ (2009-09-29 23:34) 

ジュンクワ

八ヶ岳さん

OIS3プロジェクトとしては、ホモサピエンスの渡航技術がポイントですね。
by ジュンクワ (2009-09-29 23:36) 

ジュンクワ

クロネコさん

列島最後の石器群の評価は、岩手県金取遺跡や長崎県入口遺跡は8万年前と評価されているのですが、研究者間で評価が分かれています。

教科書に旧石器時代を掲載するという活動は、日本旧石器学会でも着手したところです。

地層が12万年前であることは、地質学の分野で検討されることだと思いますが、考古学の側では、それらの資料群が人工品であるという証明は、相当に難しいことだと思います。
by ジュンクワ (2009-09-29 23:44) 

黒曜石考古学

紹介された「認定基準」に合致する最も古い石器群の一つは、愛鷹山麓の井出丸山遺跡だと思います。神津島産黒曜石の石器が、一部は中部ロームに食い込むように出土しています。それにしても松藤先生、漁撈まで言っちゃって大丈夫?当時の愛鷹山麓も海岸線はすぐそこでしたよ。それに皆さんの中期旧石器に対する慎重な姿勢を「及び腰」とはね。
by 黒曜石考古学 (2009-09-30 00:51) 

ジュンクワ

黒曜石考古学さん

愛鷹山麓の井出丸山遺跡はいいですね。

愛鷹山麓の中部ロームと上部ロームの境界と関東の立川ロームと武蔵野ロームの境界が同じ時間であるのかどうか、まだまだ検証が必要でしょうね。
いずれにしても、4万年までにおさまってしまうのではないでしょうか?


by ジュンクワ (2009-09-30 01:30) 

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